次のような登記記録の抵当権の抹消登記をご紹介します。
権利部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
1 | 抵当権設定 | 昭和1●年●月●日受付第●●●号 | 原因 昭和1●年●月●日年賦償還による設定 債権額 金●00円 利息 年5分6厘 損害金 日歩2銭 連帯債務者 (住所省略) 甲野一郎 抵当権者 東京都麹町区内山下町一丁目1番地 株式会社日本勧業銀行 (以下省略) |
休眠担保権とは、主に明治・大正・昭和初期の時代に設定された抵当権等の登記のことで、抵当権者が個人であることも多く、時間の経過により、その人は誰なのか、その相続人はどこにいるのかなどを調査することが難しく、登記権利者(不動産の所有者)と登記義務者(債権者・抵当権者)の共同申請では、抹消をすることができない場合があります。
登記権利者が債務を完済したという証拠書類を保有していないことも多く、その場合のために、以下の要件・方法により、登記権利者が単独で抵当権抹消登記を申請することができる旨の特則が不動産登記法第70条第3項に規定されています。
- 登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないこと
- 被担保債権の弁済期から20年を経過したこと
- 20年の期間を経過した後に当該被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたこと
上記の登記記録の抵当権抹消登記は、抹消登記の申請義務を承継した銀行が存在しており、通常のローン完済によるものよりは面倒ですが、比較的スムーズに共同申請をすることができる事例です。むしろ、登記義務者が判明していますので、不動産登記法第70条第3項に規定による単独申請をすることはできません。
手順は、次のとおりです。
- 現在日本勧業銀行の権利義務を承継している銀行の調査をします。
※ 司法書士は会社法・商業登記法の専門家ですので、本件のようなケースでは、一般社団法人全国銀行協会の銀行変遷史データベースや自分が所有している専門書を確認する程度で済むことになります。
①日本勧業銀行が存続会社となり第一銀行を吸収合併し、第一勧業銀行に商号変更
②第一勧業銀行が存続会社となり、みずほ統合準備銀行を吸収合併し、みずほ銀行(旧みずほ銀行)に商号変更
③平成25年7月1日、みずほコーポレート銀行が存続会社となり、みずほ銀行(旧みずほ銀行)を吸収合併し、みずほ銀行(新みずほ銀行)に商号変更 - 上記③によって抵当権者たる旧みずほ銀行は合併により消滅しましたが、旧みずほ銀行の権利義務は包括的に新みずほ銀行に承継されますので、旧みずほ銀行が合併前(平成25年6月30日)に解除した抵当権の抹消登記申請義務についても新みずほ銀行に承継され、新みずほ銀行が「承継会社」(自然人の場合の「相続人」に該当。)として抵当権解除証書の作成・提供や司法書士への委任を行うことになります。 ※ 旧みずほ銀行が合併前に抵当権設定契約を解除したことによって、その時点で抵当権は実体上消滅しているので、合併を登記原因とする新みずほ銀行への抵当権移転登記を申請する必要はありません。
- みずほ銀行(当事務所の移転前の県内の支店です。支店により、次の4.も含め対応が子となる可能性があります。)に手続(有料)を申し込みます。
- 通常の抹消書類の交付のほか、合併証明書・変更証明書(複数あり、内容も複雑なのでご紹介を省略させていただきます。)が貸し出されますので、それを添付して登記申請をします。合併証明書・変更証明書は、法務局に原本還付請求をしてみずほ銀行に返却する必要があります。なお、登記済証は紛失している場合が多いものと考えられます。その場合は印鑑証明書(現在は会社法人等番号の提供で可)が交付されます。
- 法務局からみずほ銀行の本店に事前通知がなされますので、回答してもらう必要があります。
なお、他の支店に確認したことはありませんので、これとは異なる手続方法の支店、休眠担保権の抹消に対応していない支店があるかもしれません。
注:以下の申請書は、説明に必要な主な部分(特徴)のみを記載しています。
登記の目的 抵当権抹消
原因 平成25年6月30日解除 抹消すべき登記 昭和1●年●月●日受付第●●●号 権利者 住所 甲野ヒロシ 義務者 (被合併会社 株式会社みずほ銀行) |
(みずほ銀行の本店を伏せる必要はないかもしれませんが、念のため。)
日本勧業銀行の抵当権については、以上の流れでしたが、抵当権者である銀行が吸収合併における存続会社なのか、消滅会社なのか、何度合併しているのか、また、いつ解除・放棄・弁済されたのかによって申請する登記やその件数が異なることとなり、登記をご自身で申請しようとする場合、手続方法の判断や書類収集等は、不動産登記法第70条第3項の手続以上に困難であると言えます。