相談業務を行っていると一般的な表現として、例えば「弟に相続を放棄させる」とか「私は相続放棄した」といったことを聞くことがよくあります。
相続の専門家や相続手続を受け付ける民間企業(例:金融機関)の担当者が、ここで気を付けなければいけないのは、本当の相続放棄の手続をしたのかどうかです。詳しく聞く必要があります。また、「相続放棄」は、(専門家本職は当然に間違えることはありませんが)民間企業の担当者は、自身が使用する用語としても留意する必要があります。
実際の経験として、相談者が言っている「相続放棄」が、本当に相続放棄であったケースと相続放棄ではなかったケースの両方があります。
では、本当の相続放棄と相続放棄ではなかった「相続放棄」とでは、どう違うのでしょうか。
本当(法律上)の相続放棄とは、「家庭裁判所に対して行う相続放棄の申述手続」のことです。詳しくは こちら をご参照ください。この申述が家庭裁判所に受理されると、当該申述人は、その相続に関しては、初めから(被相続人が死亡した時から)相続人とならなかったものとみなされます(民法第939条)。その結果として、相続人ではないわけですから、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない(引き継げない)ことになります。
これに対して、相続放棄ではなかった「相続放棄」は、遺産分割(協議、審判又は調停)の結果として「遺産を取得しなかった」ことを示し、(誤解を恐れずに言うと)過って相続放棄と表現してしまっているのです。
例えば、遺産分割協議の内容として「被相続人の遺産の全部は、相続人Aが取得する。」と決定した場合に、反射的に同じく相続人のBやCは遺産を取得しないということが決まり、そのことをもってBやCは「私は相続を放棄した」「相続放棄させられた」などと表現しているのです。
一部のサイトではそのことを「財産放棄」と称しているところもありましたが、私は混乱を避けるために「放棄」という言葉自体を、「家庭裁判所対して行う相続放棄の申述手続」のとき以外は使わない方がよいと考えています。
相続手続を受け付ける民間企業の担当者も聞き取りや手続の説明をする際には、相続放棄と遺産分割を明確に使い分けるようにしないといけないと考えます。他者から聞いたこととはいえ、実話であるためここでは詳しく書けませんが、担当者の一言で実害が出てしまうからです。
