施設に入っている親名義の不動産を勝手に売却することはできません

小さい頃、家族や親戚、近所の人からお年玉をもらったときに、お母さんから「これはお母さんがあなたのために大事に貯金しておくから預かるね」と言われたことはありませんか。その子の名義で預金している親もいれば、そうでない親もいるでしょう。酷いことに親が使ってしまっている家庭もあるかもしれません。「そういえばあれどこに行ったんだろう?」と今思い出した方もいるのではないでしょうか。

もちろん、子がもらった(贈与を受けた)お金なのだから、その子の「財産」であることに間違いはありません。

大人になるとこの逆バージョンが起こることがあります。

介護施設に入居していたり、認知症にかかった「親の不動産を(私が)売却したい。」

理由は様々だと思います。親の施設入居費用や介護費用の捻出、固定資産税や管理費用を節約するため、子自身が費消するため等。

しかし、子がもらったお年玉は子の財産であるように、親が取得して親が所有している(名義になっている)不動産は親の財産であって子のものではありません。親と同居していたり、子供の頃育った実家であってもです。施設にいる親の代わりに事実上の管理行為をしていても権利はありません。また、健在なので相続も開始しません。

法律的にも道義的にも、手続的にも勝手に売却することはできません(してはいけません)。文書偽造(勝手に押印等)やなりすまし(委任なしで代理する場合も含む)によって売却するのは論外です。売買契約締結だけではなく、所有権移転登記申請(名義変更の手続)も同様です。

売買等のことは民法に規定されていますので、民法によって説明します。

民法(抜粋、条文順は説明のために変更、アルファベット記号は当サイトによる)

(所有権の内容)
 第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

 第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

(売買)
 第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

(物権の設定及び移転)
 第百七十六条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
E 第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 所有者(所有権者)には、所有物(動産・不動産)を法令・公序良俗の範囲内で、使用、収益(賃貸など)及び処分(贈与、売却など)をする権利がありますが、原則として所有者以外にはその権利はありません。「所有者以外」には、もちろん「子」も含まれます。

 法律行為をするには意思能力が必要です。意思能力がない人が行った法律行為は無効です。賃貸(賃貸借)、贈与及び売却(売買)は法律行為です。意思能力とは、法律行為を発生・変更させる意思を形成し、それを行為の形で外部に発表して結果を判断・予測できる知的能力のことで、その有無は、問題となっている行為ごとに判断されます(『法律学小辞典』有斐閣)。

C 売買契約は、売主が「売ります」と買主に意思表示して、買主が「買います」と売主に意思表示すること(口頭)によって成立します。売買契約証書等の書面の作成・やりとりは任意です。

D 特約がなければ、「所有権」はCの売買契約が成立した瞬間に「移転」します。

 所有権移転登記は、第三者対抗要件としての公示のためのものであって、所有権移転の効力要件ではありまん。登記原因がなければ(売買契約が無効であれば)、登記申請をすることはできません。

以上を読んでもらえればわかるように、他人が勝手に不動産を売却することはできません。また、売主(又は買主)に不動産の売買契約やその結果を理解する意思能力がない場合は、売買契約は成立しませんし、登記申請もすることができません。

子を含む第三者が勝手に手続した場合は、有印私文書偽造罪や公正証書原本不実記載罪等の犯罪に該当する可能性があり、契約や登記の無効主張や損害賠償請求の対象にもなり得ます。

繰り返しますが、子が親の不動産を勝手に売却したり、親抜きで売却の話を進めることはできません。

子が勝手に親名義の不動産の贈与を受けることも同様です。

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