業務の依頼に関する誤解・・・結構ありますよ。
以下、「ありません」「できません」ばかりで大変恐縮でございます。
「名義変更」「名義の書き換え」という登記の目的や登記原因はありません。
登記関係者以外のほとんどの方が使う単語「名義変更」は、正確には、「○○による所有権の移転の登記(以下「所有権移転登記」といいます。)」です。○○に入るのは、登記原因である「相続」「売買」「贈与」などです。
所有権移転登記とは、「名義変更」という単語がイメージさせるように、単に不動産の登記名義人の住所・氏名を別の人の住所・氏名に「書き換え」たり、「上書き保存」するというものではありません。相続(民法第882条)や売買(民法第555条)、贈与(民法第549条)といった法律上の原因が前提としてあって、不動産(民法第86条第1項)の所有権(民法第206条・第207条)という大事な権利(物権)が、当事者の意思表示等によって別の人(法人を含む。)に移転(民法第176条)したことを登記記録で公示するものです(※)。
看板・表札の書き換えに似た物理的なものや住民票の異動の手続のようなものと考える方もいますが、どちらもまったく違います。
※所有権移転登記を申請することによって不動産の所有権が移転するわけではありません。例えば、売買契約においては、売買契約が成立した時(特約がない限り、売主が財産権を買主に移転することを約束し、買主がこれに対してその代金を支払うことを約束した時)に即時に所有権が移転します。
本人の「家族」が司法書士業務の依頼者になることはありません。
贈与する土地の所有者や遺言をする本人ではなく、その家族が業務の「依頼」をしてくることがあります。
しかし、登記申請人になれる人や遺言をすることができる人は、それぞれ「登記名義人とその登記を受ける人(相続の場合は不動産を取得した相続人)」「遺言をしたい人」であって、その家族ではありません。したがって、司法書士の登記申請の代理業務も公正証書遺言作成の支援業務も本人からの依頼がなければ、司法書士は受託することができません。家族からのそれは、単に業務に関する「問い合わせ」ということになります。
子が「親の土地を売却したい」「親に遺言を書かせたい」としても、どうするかを決めるのは本人であって、相手方と売買契約を締結するのも(その登記も)本人、公証人に遺言書を作成してもらうのも(自筆証書の場合は自署するのも)本人なのです。それを司法書士に依頼するのも本人です。したがって、本人以外が司法書士業務の依頼者になることはありません。
認知症等で判断能力が低下していて、売買契約(その登記)や遺言等の趣旨・内容を理解することができない状態であるときは、司法書士はその依頼を受託しません。その売買契約は無効(民法第3条の2)である可能性が高いからです。売買契約自体が無効であれば、当然に登記手続も発生しないわけですから、その家族からお願いされてもどうすることもできません。遺言の場合は、どう書いてよいのか分からないので文案を作成しようがありません。勝手に作成するわけにはいかないのです。
贈与や売買による所有権移転登記の申請は1人ではできません。
贈与する人又は贈与を受ける人の一方が、相手方の書類も携えて所有権移転登記の依頼をしてくることがあります。
所有権移転登記は、相続登記や判決による登記などの一定の場合を除いて、登記権利者(贈与の場合は贈与を受ける人のこと)と登記義務者(贈与の場合は贈与する人のこと)の共同申請で行う必要があります。ですので、司法書士の登記の代理申請の委任も両者から受ける必要があります(注:「別れ」「分かれ」(?)といって、登記権利者・登記義務者がそれそれ別の司法書士に依頼する慣習がある地域もあるようですが、それも共同申請であることに変わりはありません。)。
本人確認や登記申請委任に係る意思確認も両者について原則面談で行います。登記の委任状も両者からもらわないと登記申請が通りません。当事務所では、業務依頼書も両者に書いてもらいます。
子が親から生前贈与を受けた場合でも、子のみからの依頼では業務を受託することができません。
見積額・請求額の全額が司法書士報酬(事務所の料金)ではありません。
司法書士は、「登記費用」の見積書や請求書を作成して依頼者に渡します。領収書も渡します。その内訳を見ていただくと「登録免許税又は印紙税等」という欄があります。
登録免許税とは・・・
国税庁HP「No.7190 登録免許税のあらまし」より
登録免許税は不動産、船舶、航空機、会社、人の資格などについての登記や登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定および技能証明について課税されます。
納税義務者:登記や登録等を受ける者
納税地:納税義務者が受ける登記等の事務をつかさどる登記官署等の所在地
課税標準および税率:不動産の所有権の移転登記や航空機の登録のように不動産の価額や航空機の重量に一定の税率を乗じることになっているもの、商業登記の役員登記のように1件当たりの定額になっているものなどがあります。 税率は、国税庁HP「No.7191 登録免許税の税額表」参照
納付方法:現金納付、印紙納付、キャッシュレス納付
です。
不動産登記や商業登記・法人登記の登録免許税は、司法書士報酬やその他の実費相当分とともに、前払いのときは「預り金」、後払いのときは「司法書士による立替金」として請求していることが多いと思います。依頼者自身において登記申請前に税務署又は金融機関で直接納付することもできますが、昔からの慣習により、司法書士が登記申請手続の際に納税を代行しているのです。
SNSでは、「司法書士はボッタクリ」という文字とともに請求書の画像がアップされていることがありますが、よく見ると金額の多くの部分を登録免許税が占めていたりします。当事務所は、登記申請直前の前払いをお願いしているので、登録免許税を立て替えることはありませんが(市役所に支払う戸籍等の交付手数料は立て替えています。)、大金(例えば極度額1億円の根抵当権設定なら登録免許税だけで40万円)を立替えてあげているのにあんまりな言われようで、他人のことながら同業者として悲しくなってしまいます。依頼者の利便を考えると業界としても(←決まり等はありません。暗黙の常識のようなものです。)なかなか変えることは難しいのでしょうが、個人的には、自身でどれくらい納税しているのかよく認識できるので、制度として贈与税申告等のように登記申請後に依頼者自身が納付する方式になってくれればと考えています。