相続放棄

相続放棄とは

相続放棄とは、相続人が被相続人の権利や義務を一切引き継がないことを家庭裁判所に申述し、認められる手続のことをいいます(民法第938条)。

相続人間の話し合いである遺産分割協議において、被相続人の一切の財産を引き継がない旨を決めること(「財産放棄」や「遺産放棄」、「事実上の相続放棄」と呼ばれることがあります。)ではありません。また、遺産分割協議書や相続分がないことの証明書への ”押印” のことでもありません。

相続放棄の効果

相続放棄をした人は、その相続に関して被相続人が亡くなった時から相続人ではなかったものとみなされ(民法第939条)、借金などのマイナスの財産だけでなく、預貯金や有価証券、不動産、高価な動産などのいわゆるプラスの財産も含めて一切を引き継がないことになります。

相続放棄は、プラスの財産よりもマイナスの財産が大きい場合などに利用される手続です。

ただし、家庭裁判所の相続放棄の申述の受理は、適式な申述がなされたことを公証する手続とされ(非裁判説・公証行為説、最判昭和45年11月20日)、また、受理されたとしても相続放棄の実体要件を備えていたことにはならず(東京高決平成22年8月10日)、対債権者において効力が確定するという絶対的なものではないため、債権者は相続放棄の効力について争うことが可能になっています。したがって、次に示す相続放棄の要件を満たすことが重要になってきます。

なお、遺産分割協議において財産を一切引き継がないことが決定していても、相続債務については法定相続分に応じて引き継ぐことになり、債権者から請求された場合には、原則として法定相続分の限度で支払う必要があります。

相続放棄の要件

熟慮期間内に申述すること

相続放棄をするには、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続放棄する旨を家庭裁判所に申述する必要があります。この期間のことを熟慮期間といいます。熟慮期間は、利害関係人等の請求によって、家庭裁判所において伸長することができます(民法第915条第1項)。

上記の「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、①相続開始の原因事実を知った時(被相続人の死亡又は失踪宣告を知った時)に加えて、②そのために自己が相続人となったことを覚知した時(相続人たる法定順位にある者の場合は相続開始の原因事実を知った時、後順位にある者の場合は先順位の相続人の相続放棄等を知った時)とされています(大決大正15年8月3日)。

ただし、この時から3か月を経過していても、相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、熟慮期間の起算点が繰り下げられ、申述が受理される可能性があります。

判例(最判昭和59年4月27日)

相続人が、相続開始の原因事実の発生及びそのために自己が相続人になったことを覚知した場合であっても、その事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人においてそのように信じるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の事実を知った時から熟慮期間を起算するべきであるとすることは相当でないというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算すできである。

裁判例(東京高決平成22年8月10日)

相続放棄の申述がされた場合、相続放棄の要件の有無につき入念な審理をすることは予定されておらず、受理がされても相続放棄が実体要件を備えていることが確定されるものではないのに対し、却下されると相続放棄が民法第938条の要件を欠き、相続放棄したことを主張できなくなることにかんがみれば、家庭裁判所は、却下すべきことが明らかな場合以外は、相続放棄の申述を受理すべきであると解される。

なお、相続人が数人であるときは、各相続人について別々に熟慮期間が開始します。

法定単純承認事由に該当していないこと

相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継し(民法第920条)、相続放棄をすることができなくなります。したがって、相続放棄をするには、以下の法定単純承認事由(民法第921条)に該当していないことが必要になります。

  • 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき(保存行為及び民法第602条に定める期間を超えない賃貸をすることを除く。)。
  • 熟慮期間内に限定承認又は相続放棄をしなかったとき。
  • 相続人が、相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費したとき(その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後を除く。)。

法定単純承認事由である「処分」について

「処分」とは、その明確な基準はありませんが、相続財産の現状、性質を変える行為のことです。法律行為であるか、事実行為であるかは問いません。相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、又は、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要します(最判昭和42年4月27日)。

例えば、相続財産中の売掛代金債権の一部を取り立てて収受・領得(最判昭和37年6月21日)、相続財産中の債権についての訴訟提起(東京高判元年3月27日)、被相続人保有の株主権の行使・被相続人所有の不動産についての入居者の賃料振込口座の相続人名義への変更(東京地判平成10年4月24日)、相続債務の弁済(相続人の固有財産からの弁済を除く。)、遺産分割協議、家屋の取壊し、動産の毀損、不動産の売却・担保権設定など多くの行為が「処分」該当します。

被保険者である被相続人が保険受取人としていされている場合に、相続人が被相続人の保険請求権に基づいて保険金を受領したときは、「処分」に該当しまます。

形見分けであっても、諸事情を総合的に考慮した結果、それが一般的経済価額を有する場合には、処分に該当すると判断されることがあります。

相続放棄を検討するにあたり、基本的には相続財産について、法律行為としても事実行為としても一切手をつけない方がよいものと考えられます。

留意事項

  • プラスの財産や居住中の家屋とその敷地も引き継げなくなります。
  • 例えば配偶者と第一順位の相続人(子又は代襲相続人、再代襲相続人・・・)の全員が相続放棄をした場合は、第二順位の人(父母、父母双方が亡くなっていれば祖父母・・・)が相続人になります。第二順位の人がいない又は相続放棄をした場合は、第三順位の人(兄弟姉妹又はその代襲相続人(再代襲なし))が相続人となります。第三順位の人も相続放棄をした場合は、相続人がいないということになります。
  • 相続放棄をした人は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければなりません(民法第940条第1項)。
  • 翌年度の固定資産税の納税義務(地方税法第343条第1項・第2項)が発生しないようするために、相続放棄をした年内に、被相続人所有の不動産の所在市町村の固定資産税担当課に「相続放棄申述受理証明書」の写しを提出した方がよいと考えられます。手続方法等の詳細は、当該担当課にご確認ください
  • 相続放棄をしたことによって相続人がいないこととなった場合は、相続放棄をした人は、空き家問題を防止するなどの観点からは、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てた方がよいと考えられます。

相続放棄申述書作成業務のご依頼にあたっての注意点

  • 本業務のご依頼の前提として、ご依頼者様が相続財産の全部又は一部を処分してないことが必要です。当該行為を行っていた場合は、相続放棄の要件に欠けるため、ご依頼をお受けすることができません。
  • 本業務は書類作成業務であり、ご依頼者様から聴取した事実やご提供いただいた書類を基礎として、その内容を書面にする業務です。不可能なことを可能にする業務ではありません。
  • 相続放棄の申述の手続では、家庭裁判所がその審査により受理するか(相続放棄させるか)どうかを判断します。本業務の受託は、家庭裁判所に申述が受理されることまでを保証するものではありません。
  • 特に①被相続人の死亡の日から3か月を経過した後の申述、②先順位の相続人全員の相続放棄の申述が受理されてから3か月を経過した後は申述は、受理されない場合があることを十分にご理解の上ご依頼ください。
  • 成功報酬方式ではないため、申述が受理されなかった場合でも司法書士報酬、実費及び印紙代を返還することはできません。
  • 申述が受理された場合でも、債権者等から相続放棄の無効等を主張されることがあります。
  • 申述が受理された後も、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、又は私にこれを消費する行為は絶対にしないでください。

料金

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