「最後の住所」って何? 相続手続の書類には必ず記載が必要なの?

ウェブの相続手続に関する解説や記事などでよく見かける「最後の住所」ってなんでしょうか? 法律用語ではなさそうですし、辞書にも載っていないような気がします。

前からそうだから、とか、みんなそう書いているからとか、機械的に書くことが多いような気もします。

読んで字のとおり、最後(亡くなった時)においていた住民票の住所のことで間違いなさそうですが、なんかよく分かりません。

法務局の手続の関係では、次の書類に書くことが多いと ”思います” 。

  • 法定相続情報一覧図
  • 相続登記の申請書に添付する相続関係説明図(法務局HP掲載の記載例には「最後の」の記載はありません。)
  • 相続登記の申請書に添付する遺産分割協議書(法務局HP掲載の記載例には「最後の」の記載はありません。)

ちなみに、登記申請書には書かないし、登記記録に出てくることもありません。 ※ 裁判所のHPでダウンロードすることができる相続放棄申述書の書式には、「最後の」住所 とありますね。これは、相続放棄の申述先が被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所だからです。理由が明確・明快です。

相続登記の申請書に添付する相続関係説明図については、以下のような実例があります。

登記研究439号129頁

相続関係説明図の被相続人の住所はその最後の住所を記載するが登記簿上の住所最後の住所が同一でないときは、それらを併記する。また、最後の住所が不明の場合には本籍地を記載する。

私は、最後の本籍と最後の住所を併記していますが、これを読むと、原則として最後の本籍の方は不要みたいですね。因みに、法定相続情報一覧図もこれと同じようになっています。

法務局HPの法定相続情報一覧図の案内ページ「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」

最後の住所は,住民票の除票(又は戸籍の附票)により確認して記載する。(最後の本籍の記載は,申出人の任意であるが,住民票の除票等が市区町村において廃棄されている場合は,被相続人の最後の住所の記載に代えて最後の本籍を必ず記載する。)

各種手続において、何のために「最後の住所」を記載するのでしょうか。そもそも記載は必要なのでしょうか?

そして、相続登記における「最後の住所」とは?

亡くなった人の不動産については、相続人以外への遺贈による所有権移転登記を除いて、前提として住所変更登記を申請する必要がありません(というか、申請することができません。)。住所変更登記は、現在のところまだ義務にはなっていません(改正不動産登記法当該部分未施行)が、不動産登記法の趣旨やその公示の目的からすると、住所移転する都度変更登記を申請するべきものです。したがって、本来は、被相続人が所有する不動産の登記記録上の住所は、亡くなった時の住民票上の住所(最後の住所)と一致しているはずなのですが、申請が義務ではなかったこともあって、実務では、異なっているケースが非常に多く見られます。

不動産の所有者は本当にその亡くなった人なのか?この亡くなった人は本当にこの不動産の所有者だったのか? このような同一人かどうかの判断は、登記の場合、住所+氏名のみで行います。生年月日は登記事項ではありません。

前述の「べき論」からいうと、登記記録上の住所と最後の住所(「本籍が載っている住民票の除票の写し」+「死亡の記載のある戸籍謄本」で確認)の合致により、不動産の所有者に相続が開始した(不動産の所有権登記名義人と戸籍上の死亡者が同一人である。)ということを法務局に対して証明するとができ、相続登記の申請が通ることになります。

そのため、登記記録上の住所が上記のいわゆる「最後の住所」でなかったときは、その登記記録上の住所が記載されている戸籍の附票の写しや過去に取得した住民票の写し(どちらの場合も本籍が記載されている必要があります。)を添付して、同一性を証明することが「あるべき」手続だと考えられます。住所は、住所が記載されている証明書で証明する・・・。もっと言えば、住所変更登記のように住所移転の沿革(つながり)まで証明することが望ましいのかもしれません。

しかし、実務上は、本籍(出生から死亡までの戸籍、除籍、改製原戸籍謄本の数通あるうちのどれかに記載された本籍)が登記記録上の住所と同じであれば、はじめから、それだけで同一性を証明することができ、そのように処理されているのが現状です。以下の参考先例の記載(赤字部分)からは、むしろ、それが元来の審査方法(証明方法)であると読み取れます。住民票と戸籍の附票の制度(旧住民登録法)が始まったのが昭和27年7月1日(同法施行日)で、それより前にはなかったのだから当然と言えば当然のような気もします。

参考先例(平成29年3月23日民二第175号通知)

相続による所有権の移転の登記の申請において、所有権の登記名義人である被相続人の登記記録上の住所が戸籍の謄本に記載された本籍と異なる場合には、相続を証する市区町村長が職務上作成した情報の一部として、被相続人の同一性を証する情報の提出が必要であるところ、当該情報として、住民票の写し(ただし、本籍及び登記記録上の住所が記載されているものに限る。)、戸籍の附票の写し(ただし、登記記録上の住所が記載されているものに限る。)又は所有権に関する被相続人名義の登記済証の提供があれば、不在籍証明書及び不在住証明書など他の添付情報の提供を求めることなく被相続人の同一性を確認することができ、当該申請に係る登記をすることができる。

登記記録上の住所と本籍が同一なら登記可 ←「最後の住所」はどこへ行った???

相続登記においては、「最後の住所」は必要ではない👌 かもしれない。

と考えつつも、登記記録上の住所と「最後の住所」が同じであるべき(本来は同じであるはず)なのは前述のとおりで、その趣旨からすれば「最後の住所」は相続登記おいて重要な事項であると言えます。また、手続を代理した司法書士が登記の専門家として法務局に対して、相続関係説明図等の書類に「最後の住所」を記載することによって、登記記録上の住所と同じであるのか、あるいは違っているのかを示す(違っているのなら、別途同一性を証明する書類を添付している旨や戸籍謄本等の本籍の記載を見てほしい旨を表す)必要性はあるものと私は考えています。

それと、書類の中で氏名や死亡年月日とともに被相続人を特定・確認するために記載する、という考え方があります。遺産分割協議書の場合も同じです。

結論には至らず、まっまく考察にすらなっていないのですが、なんとなく言いたいことは伝わったでしょうか?

補足ではありますが、そもそも相続関係説明図も遺産分割協議書も法令で定められた書式や明確な要件があるわけではありません。最後の住所や最後の本籍を書いていない遺産分割協議書を添付して申請しても補正にはならないと思います(以前、実際に私はそのような書類を作成して添付していました。現在は最後の本籍とともに除票又は附票を取得した上でそれを根拠として最後の住所も記載しています。)。市町村役場において住民票の除票や戸籍の附票が保存期間満了により廃棄されていたり、まだ住民票がない時代に亡くなった人の相続登記であったりと、「最後の住所」自体が「ない」ために書きたくても書けないことがあるのも事実です。