登記識別情報(登記済証)を失念(紛失)したのですが、どうしたらよいですか?(法務局の事前通知の制度)

質問

長男に土地を贈与しようと考えていますが、その土地を含む登記済証が見当たりません。おそらく紛失してしまったのだと思います。不動産登記の手続はどうなりますか?

回答

登記識別情報や登記済証が再発行されることはありませんが、法務局の「事前通知」制度という登記識別情報又は登記済証の提供の代替措置がありますので、登記済証がなくても登記申請することはできます。

解説

事前通知とは

不動産の所有権移転登記を申請する場合、贈与者や売主などの登記義務者は、印鑑証明書の他に以前登記を受けた時に交付された当該不動産の登記識別情報(平成17年の不動産登記法改正前は登記済証)を提供する必要があります。

不動産登記法(抜粋)

(登記識別情報の提供)
第二十二条 登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をする場合その他登記名義人が政令で定める登記の申請をする場合には、申請人は、その申請情報と併せて登記義務者(政令で定める登記の申請にあっては、登記名義人。次条第一項、第二項及び第四項各号において同じ。)の登記識別情報を提供しなければならない。ただし、前条ただし書の規定により登記識別情報が通知されなかった場合その他の申請人が登記識別情報を提供することができないことにつき正当な理由がある場合は、この限りでない。

これは、申請書(又は委任状)に押印する実印及び印鑑証明書とともに登記義務者本人からの申請であるか(又は本人が司法書士に委任しているか)の確認のために提供するものです。

登記識別情報(又は登記済証)を提供することができない正当な理由(登記識別情報の失念や登記済証の紛失も正当な理由に含まれます。)がある場合は、法務局から登記義務者(例:贈与による所有権移転登記の場合は、所有権登記名義人)あてに「事前通知」がなされ、登記義務者がこの手続に応じることによって本人による申請であることが確認される仕組みになっています。

不動産登記法(抜粋)

(事前通知等)
第二十三条 登記官は、申請人が前条に規定する申請をする場合において、同条ただし書の規定により登記識別情報を提供することができないときは、法務省令で定める方法により、同条に規定する登記義務者に対し、当該申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料するときは法務省令で定める期間内に法務省令で定めるところによりその旨の申出をすべき旨を通知しなければならない。この場合において、登記官は、当該期間内にあっては、当該申出がない限り、当該申請に係る登記をすることができない。
2~4(省略)

事前通知の流れ

  1. 本来は提供するべき登記識別情報(又は登記済証)を提供しないで登記申請します。申請情報の「登記識別情報(又は登記済証)を提供することができない理由」欄は、登記識別情報の場合は「失念」、登記済証の場合は「紛失」とします。
  2. 登記申請をした法務局から登記義務者の登記記録上の住所に本人限定郵便(特例型)で、封書が送付されます。
  3. 封書には、①不動産登記の申請があった旨、②当該申請の内容が真実であるときはその旨の申出をするように、との内容の通知書が入っています。なお、返信用封筒等は同封されていません。
  4. 上記2.の書面において、申請の内容が真実である旨の回答欄に記名し、申請書又は委任状に押印したものと同じ印(贈与による所有権移転登記の場合は実印)を押印して持参又は返送します。
  5. 法務局が通知を発送した日から2週間(登記義務者が外国に住所を有する場合には、4週間)以内法務局に着くように返送(必着)するか、持参する必要があります。
  6. 法務局で上記4.が確認されると、登記手続が開始されます。

注意点

以上は、あくまでも贈与(片務契約)に関する回答・解説です。

売買(双務契約)に基づく所有権移転登記については、買主による売買代金の支払いと売主による所有権移転・引渡しは同時履行の関係にありますので、登記申請の受付後に実施されるこの事前通知の制度は、通常は利用されることはありません(取引行為に馴染まない。)。

民法(抜粋)

(同時履行の抗弁)
第五百三十三条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

この場合、当該申請に係る資格者代理人(登記の申請の代理を業とすることができる代理人・司法書士及び弁護士)による本人確認情報(この制度は本人申請や親族による代理申請の場合は利用できません。また、有料になります。書類作成料ではなく責任料・保証料なので高額になる傾向があります。)の提供又は申請情報等への公証人による本人確認の認証が必要になります(不動産登記法第23条第4項第1号・第2号)。

抵当権設定登記も同様です。

当事務所の業務

生前贈与の登記(不動産の名義変更)
遺言・相続がメイン業務の福岡県柳川市の司法書士事務所です。生前対策としての不動産の贈与の登記(名義変更・所有権移転登記)のご依頼もお受けしています。ご相談から業務の完了まで事務所にご足労いただくことはございません。お気軽にお問い合わせください。

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