質問
夫が突然亡くなりました。相続人は私と長男のAと長女のBです。公正証書遺言があり、「甲不動産を長男Aに相続させる。」と書いてありました。しかし、Aは遠方で事業をしており故郷に戻る予定はなく、甲不動産は要らないと言っています。また、Bは甲不動産を取得したいと言っています。この遺言はなかったことにして、甲不動産について私とAとBとの間で遺産分割協議を行い、Bが単独で取得する旨の協議書を添付してBへの相続登記を申請することはできるのでしょうか?
回答
遺言書の「甲不動産を長男Aに相続させる。」という記載は、特定財産承継遺言(遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言)といって遺言による遺産分割方法の指定であり、相続の発生により即時にAへの所有権移転の効力が生じている(甲不動産については遺産分割は終わっている)ことになります。したがって、遺言と異なる内容の遺産分割協議を行い、その協議書を添付して、Bへの相続登記を申請することはできません。
判例(最判平成3年4月19日)
特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされた場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該不動産は当該相続人に相続により承継される。そのような遺言がなされた場合の遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、上記の協議又は審判を経る余地はない。
解決策
本件において、Bが甲不動産を単独で取得したい場合は、遺言どおりにAへの相続登記を行い、AB間で不動産の贈与等の契約を締結し、当該贈与等を原因とするAからBへの所有権移転登記を申請する必要があります。
また、Bが被相続人の他の財産をも含めて取得しなくてもよいということであれば、Bが家庭裁判所に相続放棄の申述を行った上で、当該不動産について、他の相続人間で遺産分割協議を行うという方法もあります。
補足
裁判例の中には、「前記判例は、その迅速で妥当な紛争解決を図るという趣旨から、これを不要としたのであって、相続人間において、遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきである(さいたま地判平成14年2月7日)」としたものがあります。
国税庁のタックスアンサーには、次のようなものもあります。
ただし、遺言は、遺言者の死後の法律関係を定める最終の意思表示ですので、その「遺志」をできる限り尊重するべきであると考えられます。また、不動産登記は、不動産の物権変動の過程を忠実に反映して公示する制度であり、結果だけに着目して(中間の登記を省略して)申請をすることはできません。
さらに、民法には、以下のような規定があることにも留意が必要です。
民法(抜粋)
(相続人の欠格事由)
第八九一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一~四(省略)
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
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