抵当権設定者(不動産の所有権登記名義人)に住所移転があった場合
抵当権抹消登記は、融資(借り入れ)の「弁済」や金融機関による抵当権設定契約の「解除」や「放棄」によって、抵当権が消滅した際に行う当該抵当権の登記を消すための手続です。
「その抹消登記の申請をするのに、そのためだけにわざわざ前提となる別の登記を申請しなければならない場合なんてあるのか?」とも思えてしまいますが、あるのです。
例えば、以下の順の時系列で事実・法律関係があったとします。
- 不動産の所有権登記名義人がA市に住所がある時に銀行と根抵当権設定契約を締結して抵当権設定登記
- 不動産の所有権登記名義人がA市からB市に引っ越しにより住所移転(住民票の異動)
- 銀行が根抵当権設定契約を解除
このケースでは、不動産の所有権登記名義人の登記記録上の住所はA市となっているにもかかわらず、根抵当権抹消登記を申請する際の申請書の登記権利者の住所表示がB市となるため、根抵当権抹消登記のみを申請した場合、当該申請は却下されることになります(不動産登記法第25条第4号)。
登記手続においては、住所と氏名により登記名義人からの申請であるかどうかを確認するところ、住所が違っている場合は、別人であると判断されてしまうからです。
①所有権登記名義人住所変更登記、②根抵当権抹消登記と、この順番で2件の登記を申請する必要があります。
根拠実例(登記研究355号90頁)
抵当権の登記の抹消を申請する場合に、登記権利者たる所有権登記名義人の現在の氏名等が登記記録上の氏名等と符合しないときは、登記の抹消の前提として所有権登記名義人の氏名等の変更登記を申請することを要する。
抵当権者(金融機関等)に本店移転があった場合
一方、抵当権者に本店移転(会社の住所移転のことです。)があった場合は、本店移転があったことを証する情報(変更証明書)を添付することにより、抵当権登記名義人の住所変更登記を経ずに、抵当権抹消登記を申請することができます。
なお、現在の会社法人等番号で登記記録から変更の経緯が確認できる場合は、会社法人等番号を提供(義務者欄に会社法人等番号を記載し、添付情報欄に「会社法人等番号」と記載)しているので、変更証明書を添付する必要はありません。
根拠先例1(昭和31年9月20日民甲第2202号通達)
抵当権抹消登記を申請する場合、抵当権者の表示に変更を生じているときでも、その変更証明書類を添付すれば、抵当権登記名義人表示変更登記手続を省略して、直ちに当該抵当権抹消登記の申請をすることができる。
根拠先例2(昭和31年10月17日民甲第2370号通達)
所有権以外の権利の登記の抹消を申請する場合、その権利の登記名義人の表示が変更しているときは、その変更を証する書面を添付すれば、その表示変更の登記を省略して、直ちに抹消登記を申請できる。