相続登記において遺産分割により共有名義にすることの問題点

相続登記をする際に、遺産分割に基づいて共有名義にすることについては、問題点(デメリット)があります。そのことに留意した上で遺産分割協議を行う必要があります。

なお、メリットはないと言っても良いと考えられます。遺産に複数の不動産がある場合は、各不動産について別々の相続人の単有となるように遺産分けして、それぞれを取得することをおすすめします。

共有の問題点

処分行為・変更行為

共有者全員の同意がないと、共有不動産の売却や取り壊し、短期の賃貸借以外の賃貸借、金融機関からの借入れの際の抵当権設定などができません。

民法(抜粋)

(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2 (省略)

管理行為

共有持分価格の過半数の決定でないと、当該不動産の短期賃貸借契約、共有物の変更(軽微な変更を除く。)にはならない程度の利用・改良(価値を高めること。)などができません。

民法(抜粋)

(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第1項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
2 (省略)
3 (省略)
4 共有者は、前3項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 十年
二 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 五年
三 建物の賃借権等 六年
四 動産の賃借権等 六箇月
5 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

共有者に相続が開始した場合の共有状態の解消

共有者の1人に相続が開始した場合は、元々の共有者と亡くなった共有者の相続人の共有状態となります。元々の共有者の持分を物権共有の状態、相続人の持分を遺産共有の状態といいます。

遺産共有と物権共有が併存している場合の共有状態の解消は、物権共有は共有物分割遺産共有は遺産分割とそれぞれ別々の手続によって行う必要があります(最判平成25年11月29日)。ただし、相続開始の時から10年を経過したときは、相続人に異議の申出があった場合を除いて、この併存した共有状態の解消は、共有物分割訴訟により行うことができます(民法第258条の2第2項)。

共有者が増える

上記のように、共有者の1人又は数名に相続が開始すると、その相続人が共有持分を相続し、さらに相続が開始したりするなど権利関係が複雑になり、当該不動産の処分が事実上できなくなることがあります。

共有状態の解消の登記

遺産分割により共有で相続登記をした場合

遺産分割を行い、敢えて共有にした場合は、遺産共有から物権共有の状態に変わります。遺産分割は終了しているので、再度遺産分割をすることができなくなります。この物権共有の状態を解消するには、共有物分割によることになります。

民法(抜粋)

(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。

(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。

例えば、被相続人A、その配偶者B、AとBの子がC、Dであった場合に、被相続人Aの不動産について既に遺産分割協議を行い、B 3分の1 、C 3分1 、D 3分の1で法定相続分とは異なる割合で共有となる相続登記をしていたとします。その後、Bが、C及びDに対して共有状態の解消を求めて共有物分割請求を行い、共有者間の共有物分割協議によりBが当該不動産を単有とする旨の決定をした場合は、Bを登記権利者、C及びDを登記義務者とし、以下の持分移転登記を申請することになります(注:説明に必要な主な部分(特徴)のみを記載しています。)。

登記の目的 Bを除く共有者全員持分全部移転

■■■因 令和●年●月●日共有物分割

者 住所 持分3分2 B(印)

者 住所 C(実印)

■■■■■■住所 D(実印)

共有物分割には、原則として譲渡所得税の課税があります。税のことは税理士にご相談ください。

共有物の分割|国税庁

(参考)法定相続分での相続登記をした場合

相続による共有は遺産共有という状態であり、この共有状態を解消するためには、共有物の分割ではなく、遺産分割による必要があります(最判昭和62年9月4日、民法第258条の2第1項)。

法定相続分で相続登記をした後も、まだ遺産共有のままですので、遺産分割協議を行ってその遺産分割を原因とする持分移転登記を申請(登録免許税率は相続登記と同じ1000分の4)することができます。

例えば、被相続人A、その配偶者B、AとBの子がC、Dであった場合に、被相続人Aの不動産について、法定相続分であるB 4分の2 、C 4分1 、D 4分の1で相続登記をしたケースにおいて、後の遺産分割協議でBが当該不動産を単独で取得する旨の決定をした場合は、Bを登記権利者、C及びDを登記義務者とし、以下の持分移転登記を申請することになります(注:説明に必要な主な部分(特徴)のみを記載しています。)。

登記の目的 Bを除く共有者全員持分全部移転

■■■因 令和●年●月●日遺産分割

者 住所 持分4分2 B(印)

者 住所 C(実印)

■■■■■■住所 D(実印)

原因日付は、遺産分割協議が成立した日です。遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じます(民法第909条)が、相続開始日は記載しません。

相続登記の持分4分の2と遺産分割の持分移転の4分の2を合わせて、Aの単有になったことが登記記録で公示されます。なお、登記記録に「所有者」と記載されることによって単有となったことが確認できるのですが、このケースにおいて、仮に相続登記後に住所移転していた場合は注意が必要です。→こちら をご参照ください。

権利部 (甲区) (所有権に関する事項)
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
1 所有権移転 (省略) 原因 平成●年●月●日売買
所有者 住所 A
2 所有権移転 (省略) 原因 令和●年●月●日相続
共有者
住所 持分4分の2 B
住所 ■■4分の1 C
住所 ■■4分の1 D
3 Bを除く共有者全員持分全部移転 (省略) 原因 令和●年●月●日遺産分割
所有者 住所 持分4分の2 B

当事務所の業務

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